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館長日記

第5回・6回合併号「南部もぐり」の実演

2019/06/24

 その日も、飼育の作業に追われて慌ただしく動き回っていた記憶がある。もぐらんぴあは、1994年(平成6年)4月にグランドオープンしたが、予想をはるかに上回る入館者が押し寄せ、館内は混乱していた。その合間を縫うように行き来しながら、飼育経験がほとんどない新米の私達は、サンシャイン国際水族館の指導スタッフから、魚の飼育・展示・水槽の維持管理等、いろいろな作業をレクチャーしていただいている最中だった。目の前の課題をこなしていくのに、ヘトヘトだった。

 そんな時期に、一人の青年がもぐらんぴあを訪ねてきた。

 「珍しい魚を捕まえたので、名前を教えてほしい。」

という事だった。その魚は体長5~6センチほどの小さな魚で、初めて見る魚だった。顔がイノシシにそっくりで体の半分近くを占めており、胸鰭を使ってちょこちょこ歩いていた。幸い、一緒にいたサンシャイン国際水族館スタッフの方がすぐにわかり、「これは『クチバシカジカ』です。珍しい魚なんですよ。どこで採集したんですか?」と、その青年と会話したのが、初めての出会いだった。

 その後、その青年が種市町(2006年に合併し現在の洋野町)で天然のホヤ漁をしている磯崎さんで、110年以上の歴史がある「南部もぐり」の伝統を引き継いでいる方だという事を知った。南部もぐりをしている磯崎さんとの接点は、ここからはスタートだった。

 磯崎さんは、ホヤ漁の合間にクチバシカジカを採集し、自宅で水槽を用意してクチバシカジカの飼育を始め、産卵、ふ化も成功させた。日本で初めてのふ化成功という快挙で、専門雑誌などにも掲載された。採集そのものも、当時は日本沿岸では4例のみ(岩手県角浜、相模湾、松島湾、岩手県釜石市)で日本では珍しい魚であった。(岩手県種市町角浜で、昭和37年に発見された魚である。)磯崎さんは自宅の水槽で8個体も飼育している時期もあり、もぐらんぴあでの展示、サンシャイン国際水族館ではふ化した稚魚と親子展示等にも協力している。

 その他にも磯崎さんはホヤ漁の合間に、海底10~40メートルの水中写真や動画で、数多くの生物を撮影した。写真コンテストで受賞もしている。南部もぐりという特殊な環境が、磯崎さんに多くの興味ある対象を広げ、提供してくれていると感じ、羨ましく思った。同時に、潜水時間が制限された中での作業・減圧・70キロもの重装備・補佐スタッフが必要等、南部もぐりは特殊で近寄りがたいという印象だった。

 あれから22年後、もぐらんぴあが再オープンした2016年に、南部もぐりの実演を始めた。実演は、もぐらんぴあの展示課の男性スタッフ4人。まったく経験したことがなかったが、洋野町の種市高校の全面的なご協力により、短時間で習得することができた。南部もぐりを紹介する司会も、初めての取り組みであった。インフォメーション課の女性スタッフ4人が、原稿を考え立派に対応してくれた。海女の素潜りと共に土日祝日だけの実演であるが、今ではもぐらんぴあにとっては、なくてはならない存在になっていると思う。

 どうして南部もぐりを紹介しようと思ったのか?上手く説明できない。ただ、きっかけになったのは東日本大震災でもぐらんぴあが全壊し、すべてを失ったからだとは思う。もしあのまま営業を続けていれば、実演の導入を考えることは無かったような気がする。

 NHKの「あまちゃん」で、北限の海女と共に注目された事で、地域の大切なものに気づかされた事もある。大震災では、スタッフそれぞれが原点に返り、考えざるを得なかった。その貴重な体験が、展示のあちらこちらに活かされている。南部もぐりの実演は、その象徴であると思う。

 次回は「一魚一会 さかなクンと久慈の命の物語」NHK放送について伝えていきたい。